ようこそ拙宅の劇場へ。イラストは2号館へどうぞ。

郵便局(メールフォーム)



いくらでも引けます

はじまりをもういちど

ハッピーナインティーン

2月あたりまで点けっぱなしになっていたバスロータリーのイルミネーションが、そういえば姿を消している。入れた気合いが尻すぼみになっているようでかわいい。切れた定期のまま改札をくぐり、ホームへ上がる。昼下がりの電車はそれなりに空いていて、
そして動いていなかった。人身事故だった。

無駄に家を早く出ていたので、運転再開まで待った。
用があったのは池袋より先の駅で、わたしはただ単に運ばれていった。少し働いて、帰るだけの日だった。桜はほぼ散っていた。
橋を渡り住宅街を走り抜け、シャッターの下りた店が砂嵐のように過ぎていく。店先に一瞬見えたスプレーの落書きには、グーとチョキが並んでいた。存在の是非はさておき、ああいう落書きのセンスは嫌いじゃない。変わらない勝敗を一瞥して、車両は走る。
一生それしか出せないとして、選ぶべきはグーだろうか、チョキだろうか。はたまたパーか。まあ、最初はグー、のルールをぶち破っていいなら、わたしはチョキを選ぶだろう。石や紙でなにかに決着をつけるのは、少しコツが必要だろうから。刃物なら話が早い。
しかし刃物を手にしていても、振るえなければ意味がない。振るってしまったらもっと、意味がない。なにもかも、いつでも意のままだ。軽くステップを踏むように、ホームへと降りる。空は鈍色だった。

わたしが19歳になっても、世界は優しい。